- 書名:図解でわかる 14歳から知る『食べ物と人類の1万年史』
- 著者:インフォビジュアル研究所
- 発行所:太田出版
- 発行年:2021年 2023年第3刷
大島賢洋氏率いる編集・デザイン・CGスタッフチームによる「14歳から知る」図解シリーズ。大島賢洋のYouTubeチャンネル『大島図鑑』では様々な食料問題、社会問題、政治問題などを取り上げ、突っ込んだ意見も発信している。
この図鑑シリーズは食べ物の歴史を通じて人類の進化や社会の変化をわかりやすく紹介。特に中高生が理解しやすいように書かれており、食文化や農業の発展が人類の歴史にどのような影響を与えたかについて詳しく説明されている。特に教科書並みに文字が大きいのは中年以降にも読みやすい。
PART①は『食の歴史紀行』
人類は20万年間も狩猟採集で生きてきたが、約1万年前に農業が始まり、人々が定住生活に移行したことが、人類史に大きな転換をもたらしました。この変化により、都市が発展し、人口が増加し、文明が形成された。
近代までの流れを拾ってみる・・・
「麦はなぜメソポタミア文明を生み出したのか。米はどうやって日本にやってきたのか。トウモロコシが作ったオルメカ文明とは。西洋料理の原型となったギリシア・ローマの美食って?胡椒はなぜ金銀に匹敵したのか」
そして、香辛料の交易や新大陸からヨーロッパに持ち込まれた作物(トマト、トウモロコシ、ジャガイモなど)が、どのように世界の食文化に影響を与えたかが解説される。
大航海時代が始まり(図解ではスペインが新大陸に送った侵略者としてコルテス、アルバラード、ピサロの三人の肖像画入り)、甘い砂糖を求める人々の欲望がプランテーションを生み、イギリスは紅茶を求めて中国最後の王朝を滅亡に招いたと・・・。
次に、産業革命によって食料生産が機械化され、食品の流通や保存技術も発展した。この時代に冷蔵技術や缶詰技術が登場し、食生活が大きく変化する。
「工業製品になった食品」という見出しと「こうしてアメリカ式食生活が世界を席巻していくんだね」というイラストの吹き出し。食糧生産の急激な近代化のページでは、こんどは「工業製品になった家畜たち」というタイトルがあり、<酪農と農業の近代化は自然の産物を工業製品に変え、食の安全や自然環境への影響など、諸問題を残しました>と締めくくっている。
さらに「アメリカのファストフードが1960年代以降、世界を席巻」という項が出てくるのだが、「規格化されたサービス」という見出しや「食のグローバル化とその反動」として高カロリーのファストフードが世界の肥満率を高めたとし、1980年代マクドナルドのイタリア進出を機に「スローフード」運動が始まり、伝統的な食文化を見直す動きが世界に広まったとある。
PART②は『人と食の大問題』として、気候変動、水不足、肉食が原因とされる温暖化、プラスチック汚染、フードロス、食の格差、食料自給、F1種問題、遺伝子組み換えと農薬使用の安全性について。
PART③は『食のイノベーション』。SDGs、健康と環境と食のトレンド、AIとテクノロジー、肉食離れ、有機農業とオーガニック食品市場、ビル街での農業、農村とテック革命について。
PART④は『日本の食が危ない』。食の安全で世界に逆行する日本、日本の食生活を変えた戦後のアメリカの食糧政策。
さらに、「農協」の食と農村の未来、そしていま私たちにできること。
この図解書は「食べ物への<欲望>とともにあった人類の文明史1万年」をまとめたものなのだが、「生きるための食べ物」が「利益のための食べ物」になってから、いまもその<欲望>は複雑化して止まる気配がない。
それを14歳に知らせる義務もある。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。