- 書名:LAフード・ダイアリー
- 著者:三浦哲哉
- 発行所:講談社
- 発行年:2021年
著者は2019年の4月から2020年の4月までの1年、小さな子供を含む家族4人でロサンゼルスに住んだ。大学の准教授である著者の映画に関する研究のためである。
三浦哲哉は『食べたくなる本』の著者でもある。食への探究心はもとよりかなり深い。よって本書は映画と1年間の食生活から見たアメリカの多様性を発見していく記録である。
最初のアメリカの食の洗礼は到着した空港内のセブン・イレブンで買った菓子パンであった。空腹の子供たちはその強烈なシナモンと舌にダイレクトにくる甘さのために一口で「まずい」という判断を下す。
家族は現地で探し始めたアパートに越し、自炊を始めるまで食難民となる。中華麺と餃子、トマトケチャップをつけたフライドポテトの日々が続き、この間、子供たちは車で酔うようになってしまった。
ということがあるが、けしてアメリカの食べ物を否定する内容の本ではない。著者のルーツには父親がコカ・コーラのボトラーズに勤務していたということがある。子供の頃、地方暮しながらコーラは飲み放題で父親の嗜好からハンバーガーやインスタントラーメンが食卓に出てきた。
つまり、この短いアメリカ生活は自分(いや戦後に育った2世代3世代の日本人の)を作ったアメリカを探る旅でもある。
著者はLAの寿司には季節がないことを知る。旬の魚がない。これまでに食べたことがないとうもろこしのトルティーヤを『ゲリラ・タコス』で食べ、アメリカのメキシコというものに出会う。カナダ人と結婚した妹夫婦によって自然食の洗礼を受ける。
そして夏にシェアしたヴェニスビーチの家では、アボカド・マンゴー・マグロ丼によってアメリカにおけるエキゾチズムを発見する。
著者は本業の映画からもアメリカの多様性を発見していく。2018年に亡くなった料理評論家ジョナサン・ゴールドのドキュメンタリー映画『シティ・オブ・ゴールド』だ。ジョナサンは街角の小さな店を通して文化が混在するLAというものを案内していく。著者はその足取りを追うのである。
われわれは筆者の1年を追うことで、アメリカの画一的に見える「食」が実は多様性のなかで生まれてきたものだということを知る。アメリカは多人種による実験国家であることを実感するのである。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。