2021.04.02

伊藤比呂美+枝元なほみ
なにたべた?【私の食のオススメ本】

  • 書名:なにたべた?
  • 著者:伊藤比呂美+枝元なほみ
  • 発行所:中央公論新社
  • 発行年:初版2011年 2018年再販

1955年生まれ、同志のようなふたりのFAX往復書簡。伊藤比呂美は78年に現代詩手帖賞でデビューした詩人。枝元なほみは転形劇場の女優から料理研究家になった。

彼女たちの連絡は今日食べたものの話からはじまり、恋愛やセックスの話がその内容の深さとは違って軽やかにやりとりされる。

冷えコロッケのオムレツエンゼルパイオレオ。人生に不安要素を感じて焼く大きいもちもちケーキ。残り物野菜からのタマリンド入りのカレー。おばちゃんが鍋をふるタイの屋台のパッタイ。土手でつんだよもぎの団子。二日酔いのときの梅とろろのにゅうめん。朝帰りの彼とのむエスプレッソコーヒーふかし芋チョコレートクリーム。食卓には醤油を使わない一品セロリの漬物。男と広尾商店街で買う花とコンドームとそら豆スパイスをたくさん使う「仲人の喜び」。83年戒厳令下のポーランドでジャガイモのパンケーキ酢キャベツの煮込み。かきあげを食べたい!健康な食欲は正しい愛情生活。産後の「血の道にあずき」。便秘対策のウイータビクス人参炒り卵カッテージチーズのサラダ。マクドナルドの朝ごはん。食いかけのバナナでつくるバナナカスタード。名前にひかれて買ったモントレージャックというチーズ。桃茶カモミール茶のブレンドでハーブティー三昧。ユダヤ文化はチョップトレバーサンドイッチ。拒否反応のキドニーパイ。カルフォルニアの不味い水で昆布だし。キャンプご飯に牛肉のトマトシチュークスクス。美味しいのに違和感がある北アフリカのクスクスとシリアのタブーリ・・・

料理が挿入される話題はすべてが美味しい話ではない。人生と同じである。

軽やかと書いたが今のclubhouseの時代であったとしたら挙手で会話に参加するには躊躇されるが、同年代で同時代で生きてきたものに懐かしい匂いがする、少しせつないライブな書簡だ。

枝元が料理修業した中野駅前のエスニック料理店「カルマ」はもうない。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。